雨が降り一気に秋の気配の徳沢です。これから徐々に色づく木々を楽しみに紅葉シーズンが始まります。
徳沢には上高地の紅葉を代表する御神木があります。一度来られた方には特に印象的なキャンプ場に堂々とそびえ立つかつらの木。
我が徳沢を誰よりも見守り続けた長老として、
春は優しい匂いを振りまき動植物に春の訪れを告げます。
夏には若い木に見せつかるが如く、枝がしなるくらい葉っぱをつけ躍動感に満ち溢れます。
秋は、年季の入ったいぶし銀の胴体に、葉っぱをまぶしいくらいの黄金色に染め、その年一番の喝采を浴びます。
そして、その拍手も鳴りやまぬうちに一気に葉を落とし、誰よりもみすぼらしい姿になり、哀愁漂う姿で冬を迎えます。
一番輝いてる瞬間から一番見られたくない姿に惜しみなく変わるこの男気に人々は感動し、尊敬の念を抱く。物言わぬ支配者。山の主。
幼いころから見てきたこのかつらの木。おそらく、私の祖父も、またその先代も。そして徳沢を開拓した私の四代前の主も共に徳沢で苦楽を共にしてきたと思います。
ただ、世代というのは我々人間だけのものではありません。あまり目にしませんが木にも世代交代というのがあります。
年々ですが、木にも変化があります。いぶし銀を称された体をよく見ると、長い間、雨風、極寒に耐えた名誉の傷が至る所にあります。また、木も歳と共に病にもかかります。その胴体は、今では空洞化し、皮一枚で繋がって立っています。
昨年、木の専門家にかつらの木を診断してもらいました。想像通り寿命を迎え文字通り首の皮で繋がっているそうです。ただ、その周りには若い子孫たちがきちんと育っており、次世代の準備は着々と進んでいる。本体を取り除けばさらに世代交代は進むとのこと。
一年前より土地を管轄する環境省さんにも相談し、最後倒れて人を傷つけたなど不名誉なことになる前にかつらの木を整備することになりました。我々家族にとっても苦渋の決断でした。
ただ、最後にもう一度だけあの黄金に輝く姿を皆さんの瞼に刻む時間を頂き今秋終わりまで待っていただいています。
多くの写真愛好家に愛され、登山家を励まし、通るすべての人間を癒し続けた御神木。
ぜひ、最後の雄姿をご覧にお越しください。
(紅葉は10月10日頃~20日頃)