10月27日。
下山まで約1週間となったこの日。私たちは悲願の徳本峠越えを決行しました。
今年の締めに皆が望んだこのコースは、かつて上高地に通じる唯一の道として沢山の先人達が様々な思いで歩んだ長き道です。徳沢園から島々までの約20キロ、最高地点である徳本峠からゴールとなる島々までは標高差1,415メートル。決して容易な道のりでないことは想像できます。
前日は一日雨。 当日の朝も小雨でしたが、回復する見込みの天気予報を信じて、へっぽこ登山隊、6時45分に徳澤園出発です。
徳本峠小屋を目指し、黙々と登り高度を稼ぐ中、ふと振り返ると雲が切れ、日が差してきたなかに美しくそびえる明神岳、そして穂高の姿が・・・。ひとときの雲の切れ間でしたが、神々しい美山の姿に一同感動です。
峠にたどりつくと、またも小雨が・・・。 現在改装工事作業中の徳本峠小屋のご主人が、「これは雪になるよ?。」と言った途端、本当に雪が舞い始めました。
寒い寒いと凍える私たちに室内のスペースをかしてくださった優しいご主人。もちろんお別れは一緒に記念写真です。
かわいい小屋ができそうで楽しみですね。来年は新徳本小屋に泊まらせてください。
色々御配慮ありがとうございました。
おにぎりとお味噌汁で燃料を補充した私たちは、長い長い下り道を進み始めました。
ここからはメンバー誰もが未経験の未知の世界。不安と期待でいっぱいの私たちをはげますように、おひさまときれいな青空が徐々に広がり、完全に気分上々です!
峠から島々までのこの道は、一言で言うと衝撃的でした。
昔は上高地までのメインストリートだったとはいえ、釜トンネルが開通し、飛騨側からは安房トンネルも通り、10時間かけて登った行程も車で約1時間ほどと便利になった今、
この峠道はきっと地味でただただ長いだけかもしれないなぁと正直あまり期待はしていませんでした。
ところが実際に足をふみいれてみると、美しい紅葉に、さわやかな沢の流れ、変化にとんだ味のある橋をいくつも渡り、黄金の落ち葉の絨毯を歩く。
京都の紅葉や熊野古道もいいけれど、ここにもありました。隠れた日本の絶景が・・・。
自然を愛で、会話を楽しみ、シャンパンで乾杯!(休憩タイムはあいかわらず充実です)
穂高や槍に登るようなスリル感はないけれど、歩くことを心から楽しめる10月下旬の徳本峠越え。もっとたくさんの人に歩いてみてほしいと心から思った私たちでした。
スタートから8時間30分ののち、へっぽこ登山隊、無事島々の地に到着です。
そこはもう下界。 今までの登山とは一味違う忘れられない一日となりました。
ほぼ沢沿いを歩く道のため、豪雨などで荒れてしまうこともしばしばある徳本峠道。
その昔徳沢牧場まで牛たちはこの道を登って行き、時には途中で沢に落ち、命を亡くした牛たちも多々いたそうです。峠越え終えた今、そんな昔話も今はなんだか心に響きます。
レポート 若女将
徳沢に戻って後日、5年目のさわちゃんが感想を書いたと言って、メモ書きを数枚持ってきてくれました。今回の峠越えに対する想いの強さと感動の深さが伝わる文章だったので、抜粋ではなく全文で掲載します。
徳本峠。
5年前徳沢に来てから、ずっと気になっていた道でした。
島々から上高地まで道路ができるまでは歩いて超えていた・・・今でも整備はされたものの残っていて、未だ好んで歩く人がいる。
若いころ、登山をしていた私の両親やその仲間たちは、徳本峠を歩くために数年前まで上高地に来ていました。ずっと一緒に行ける機会を待ってはいましたが、それは叶わず。
山の頂上を目指すわけでもなく、一体誰が9時間もかけて長い長い道を歩くだろう。
バスや車であっという間に来られるのに・・・。
今年の春、ひたすらに歩きそうなまみちゃんがまた徳沢に来ると知り、一番に声をかけました。下山をひかえた寒さも厳しくなる10月下旬。島々の紅葉がピークとなる頃、それを目指して歩こうと。それがこの半年間に1人2人と仲間が増え、5人の心強いメンバーとなったのです。
その日の前日は雨。一日中、雨でした。そして迎えた当日の朝。晴れ間はみえるものの、
峠までは小雨がぱらぱらと降り、峠の小屋に着いた頃には雪に変わり・・・。きっと一人だったらくじけてしまったことでしょう。
しかしその後は日がさしはじめ、落ち葉がはらはら散っていくのがきれいなこと。
ひと気のない道をひたすらひたすら歩き続けました。川の流れとともに、行きつ、戻りつ、何度橋を渡ったことか。移りゆく景色と紅葉が今でも焼き付いているのは、自分の足で歩いたからこそ。ぬれた石に気を使いながら、(たまにすべって転び)けがなくみんなで島々にたどりついたときの想いは決して忘れません。一足先に下っていたおかみさんにも会え、ホッとしました。徳澤園で過ごしたからこそ、この峠を歩くことに価値がある。そんな気持ちを強くした峠越えでした。
今回は徳本峠から川沿いをずっと下っていきましたが、本当に大変なのは島々のほうから登ってくる道です。いつかまた歩こうと思いながら・・・。
楽しい時間をありがとう。
レポート さわ